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スローカーヴ


乾いた冬の西日が
円錐の右のほうを照らす
赤い頬の女の子は
気がつけば、ずっと遠くに沈んでいた


ゆるやかな蛇行を繰り返して
丘の上から海辺の家まで帰る
淡いオレンヂ地のカンバスが
やわらかい厚みと、おだやかな温もりをもって
そこにあった


陽が沈んだのち
浜辺から見上げた三日月は完成されていて
わたしは、砂に埋もれた巻貝の背中をさする
暗がりのなかのヴィーナス像が
病的な白さを恥ずかしそうに隠していた


風は、どこから吹いてくるのかは知らないが
丘の上の風車を静かに動かす
円柱の白いモニュメント
その影がゆっくり角度と長さを変えていく
風の音に耳を傾けるくらいの余裕を
舌の上でしばらくは転がしていられる


赤い頬の女の子は
今ではスローカーヴを描き
蛇行する道を下ってゆく
わたしは寒空の三日月を指でなぞる
木造の風車がきい、きい、と温度の低い声を発し
あたたかい風が世界の角を減らしていった


乾いた冬の西日が
今日も音もなくそこに現れる
オレンヂの海に立てた旗が
わたしを咎めるようにゆっくりと、風に靡く


重力が10分の1だったら
さっき放り投げた小石は
スローカーヴを描いて水平線へ消えてゆくだろうか
わからないわたしは
波のゆらぎに少しこころを任せることにした



 しぇる
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by sheru19 | 2007-01-14 21:38 |  

breathe

世界の隙間から
気まぐれに染み出しているその呼吸音に
僕らはもう少し
耳を澄ますべきなんだと思う



それは
日々の雑踏にかき消されているかもしれない
けれど
「聞こえる」とか「聞こえない」とかいう問題ではなく
「そのように聞こうとする」ことが
今より半歩、生き易い呼吸法になる



悩まない少年は悩めない朝を迎え
悩めない少女は悩もうとしない夜を抱く
二十歳の僕らは境界線のないプールで
息継ぎの仕方がわからない



入り組んだドアを叩いては
返事がなければ進めない
そんなところにだけ妙に耳が利いて
僕らは僕らの呼吸を忘れている
世界が音をたてるのかはまだ疑問だけれど
僕らの呼吸が世界の音であってもいい



後ろから
あなたの滑らかな背中を抱いて
耳を澄ませてみる
丸いらしい世界の長方形の部屋で
孤独な呼吸音が、それでも
不協和音で在り続ける



このまま鳴り止むまで
単音になって
そして無音になる頃
まだ世界が音をたてるのかはわからないまま
世界のどこかで横たわっている
そう
宇宙の中心はどこであるとかは
まるでどうでもいいかのように




 しぇる

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by sheru19 | 2007-01-13 12:41 |  

オレンヂの崩壊


奏でれば奏でるほど
音ではなくなっていく段階
私の心とか、右腕とか
背中とか、左脚とかに絡まっていく思いは
白い雲が夕焼けに染まっていくように
そっと、分らなくなってしまったらいい
そして雲は風に流されてゆけ



声に出せば声に出すほど
言葉ではなくなっていく段階
いっそ唇を塞いでしまいたい
思いが世界のどこを巡って
誰かに辿りつくか想像するなど
あのオレンヂが崩壊した後の世界を作るみたく難しい
嘗ての肌のぬるさや
心音の意図、部屋の湿度を両手で手繰り寄せていく



見つめれば見つめるほど
世界とあなたが見れなくなっていく段階
ただ、糸を巻き続けて
ただ、オレンヂの崩壊を恐れて
同じような日々の羅列に
ため息をしている少女へ、僕から
「明くる日まるっきり世界が変わるっていることもあるんだよ」
雲が浮かんでいたとしても




 しぇる
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by sheru19 | 2007-01-10 22:57 |  

二枚入りビスケット

ウェイトレス
彼がそう言うと
世界は彼で、彼女はオブジェにすぎなかった
わたしはきっと、アクセサリーだ


それは、哀しい自信であり
空しい真実だった
彼がそういう人間だということは了解しているけれど
わたしもきっと、そういう人間だ


二枚入りのビスケットの袋が
不幸な音をたてる
運命共同体ではない
かたっぽが半分に割れて、もうかたっぽがひび割れ程度で済むこともある
愛とはきっと、袋のなかの空気だ


「愛して」と無理なお願いをする
やっぱり彼はいつものように
「愛はするものなのか?」と無形の声で問いかける
ピアスは、輝かない


「ウェイトレス」
もう一度彼が向こうに立っているオブジェを呼ぶ
世界は彼で、わたしは何だろう
わたしが世界なら、彼は何だろう
ビスケットの袋を、おもむろに広げたくなったんだ
そのとき




 しぇる



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ちょうど一年前に書き上げたもの。
女性目線で書いてみた(偶にする)。若干小説を書くことを齧った時期であり、こんな描写が懐かしい。
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by sheru19 | 2007-01-07 17:18 |